茶葉の「衣」
人と同じように茶葉も、呼吸をします。
半年、一年経ってもまだ艶があり、香りが立ち、滋味が感じられれば、茶葉が生きている証です。逆に、艶がなくくすんで、香りがなく、酸味ばかりが際立っているなら、傷んでいるのかもしれません。
ここでは、茶葉に残っている酵素が環境に応じて働く動きや、微生物の活動を、呼吸に見立ててお話しします。
さて、茶葉を良い状態で保ちたいとき、どんな環境に置けばよいのでしょうか。
まず保存には、二つの向きがあります。変化を止める保存と、変化を育てる保存です。
最も広く行われているのは、真空パックと冷蔵。乾燥剤を包装材に入れることもあります。緑茶は風味が変わりやすく、この止める保存が一般的に定着しています。
一方、生プーアル茶や白茶を押し固める処理は、両方を兼ねています。外気との接触面を極力減らしながら、固形茶の内部ではゆっくりと熟成が進む。
実際には、茶葉の種類と置き場所の環境によって、保管の仕方はさまざまであるべきです。そのとき意識するのは、茶葉と環境の「境」の塩梅です。外気との接触面に置く境、いってみれば「衣」のようなもので、その物性、目の粗さ、質感を検討します。
ちょうど、衣替えの時のようなことです。
少し乾燥してきて、時々肌寒い。薄手の上着を羽織っていこう。人なら、そう考える。
夏のあいだは暑さと湿気をしのぐために冷たい場所に閉じこもっていたが、秋のほどよい湿度と気温なら呼吸しやすいだろう。薄手で、それなりに通気性のある容器に移りたい。茶葉なら、そう言うかもしれない。
そんなふうに、茶葉の側の事情を想像するのです。
では、どんな「衣」を与えようか。
まず生プーアル茶や白茶の固形茶には、和紙をおすすめします。
とくに手漉きの和紙は繊維が複雑に絡み合っていて、見た目よりはるかに表面積が広い。そのため調湿性に優れています。ほどよい通気性があり、重ねる枚数や厚みで調節できます。表面に柿渋を塗る一閑張りのような一手間を加えれば、遮光性が上がり、防虫も期待できます。
生プーアル茶や白茶には微生物やカビ、酵母が比較的多く残っているとされ、熟成の風味に関わっています。
この小さなオーケストラを成り立たせる土台が、ほどよく入れ替わる空気です。
次に、緑茶。
おすすめは無釉の陶器です。できれば専用の蓋があり、本体と蓋の隙間が極限まで狭められているもの。
陶器のごく微細な穴が、わずかに、しかし確実に空気を通します。緑茶のように繊細で酸化しやすい茶葉でも、安心して入れておけて、じっくり呼吸させ、熟成させることができます。
アッサム種、例えばベトナムのシャン種のような葉の大きい緑茶は、この無釉の陶器での熟成がとくに楽しめます。ゆっくりとした酸化で、ほのかなまろやかさが生まれる。そのままでは少し青臭く、苦渋味の強い大きな葉も、角が取れていく。私の実感では、ウーロン茶に近い味わいへ育っていきます。
こうして「衣」の働きを見ていくと、それは「膜」だと言えます。
細胞膜は、必要なものだけを選んで通します。選択的透過です。同じように、茶葉に適切な衣を与えれば、茶葉の呼吸にふさわしい環境ができる。
一方で、プラスチックや金属、釉薬のかかった器は、通さない「壁」です。止めたいときには、壁でいい。育てたいなら、膜です。
柔軟な「膜」。有無を言わせぬ「壁」。
日常のお茶には、たぶん膜が合っています。