- 差出人
- 茶功アカデミー K.Koba
- 件名
- 茶葉の「衣」
- 配信日
近況
サンマの初物が出回り始めました。
湿っぽい空気に夏の名残を感じながら、お茶の仕上げに追われています。
今回はこの三つです。
- 世界茶文化展のお知らせ(来週です)
- 茶記:茶葉の「衣」
- 今日の一杯
エスニックティーサロンからのお知らせ
9月12日(土)・13日(日)の二日間、「世界茶文化展」に出展します。
定番のスオイザン雪茶と月茶(どちらも白茶)はもちろん、秋にぴったりのディエンビエン産の生プーアル茶と緑茶も、新しくお持ちします。
日時:11:00〜19:00
場所:KITTE 地下1階 東京シティアイ パフォーマンスゾーン(東京駅丸の内南口すぐ)
主催:世界茶文化展
みなさまにお会いできることを楽しみにしております。
茶記
人と同じように茶葉も、呼吸をします。
半年、一年経ってもまだ艶があり、香りが立ち、滋味が感じられれば、茶葉が生きている証です。逆に、艶がなくくすんで、香りがなく、酸味ばかりが際立っているなら、傷んでいるのかもしれません。
ここでは、茶葉に残っている酵素が環境に応じて働く動きや、微生物の活動を、呼吸に見立ててお話しします。
さて、茶葉を良い状態で保ちたいとき、どんな環境に置けばよいのでしょうか。
まず保存には、二つの向きがあります。変化を止める保存と、変化を育てる保存です。
最も広く行われているのは、真空パックと冷蔵。乾燥剤を包装材に入れることもあります。緑茶は風味が変わりやすく、この止める保存が一般的に定着しています。
一方、生プーアル茶や白茶を押し固める処理は、両方を兼ねています。外気との接触面を極力減らしながら、固形茶の内部ではゆっくりと熟成が進む。
実際には、茶葉の種類と置き場所の環境によって、保管の仕方はさまざまであるべきです。そのとき意識するのは、茶葉と環境の「境」の塩梅です。外気との接触面に置く境、いってみれば「衣」のようなもので、その物性、目の粗さ、質感を検討します。
ちょうど、衣替えの時のようなことです。
少し乾燥してきて、時々肌寒い。薄手の上着を羽織っていこう。人なら、そう考える。
夏のあいだは暑さと湿気をしのぐために冷たい場所に閉じこもっていたが、秋のほどよい湿度と気温なら呼吸しやすいだろう。薄手で、それなりに通気性のある容器に移りたい。茶葉なら、そう言うかもしれない。
そんなふうに、茶葉の側の事情を想像するのです。
では、どんな「衣」を与えようか。
まず生プーアル茶や白茶の固形茶には、和紙をおすすめします。
とくに手漉きの和紙は繊維が複雑に絡み合っていて、見た目よりはるかに表面積が広い。そのため調湿性に優れています。ほどよい通気性があり、重ねる枚数や厚みで調節できます。表面に柿渋を塗る一閑張りのような一手間を加えれば、遮光性が上がり、防虫も期待できます。
生プーアル茶や白茶には微生物やカビ、酵母が比較的多く残っているとされ、熟成の風味に関わっています。
この小さなオーケストラを成り立たせる土台が、ほどよく入れ替わる空気です。
次に、緑茶。
おすすめは無釉の陶器です。できれば専用の蓋があり、本体と蓋の隙間が極限まで狭められているもの。
陶器のごく微細な穴が、わずかに、しかし確実に空気を通します。緑茶のように繊細で酸化しやすい茶葉でも、安心して入れておけて、じっくり呼吸させ、熟成させることができます。
アッサム種、例えばベトナムのシャン種のような葉の大きい緑茶は、この無釉の陶器での熟成がとくに楽しめます。ゆっくりとした酸化で、ほのかなまろやかさが生まれる。そのままでは少し青臭く、苦渋味の強い大きな葉も、角が取れていく。私の実感では、ウーロン茶に近い味わいへ育っていきます。
こうして「衣」の働きを見ていくと、それは「膜」だと言えます。
細胞膜は、必要なものだけを選んで通します。選択的透過です。同じように、茶葉に適切な衣を与えれば、茶葉の呼吸にふさわしい環境ができる。
一方で、プラスチックや金属、釉薬のかかった器は、通さない「壁」です。止めたいときには、壁でいい。育てたいなら、膜です。
柔軟な「膜」。有無を言わせぬ「壁」。
日常のお茶には、たぶん膜が合っています。
この話は、講座のこの回で詳しく扱っています。
今日の一杯
この夏を越えて、深まった滋味。豊かな質感。重厚な味わいの中に確かに感じる淡水の爽やかな香り。赤土系無釉の茶器でどうぞ。来週の会場にも持っていきます。
ご自身の体質から選ぶなら、喫茶養生ガイドラインで現在地を測れます。
それではまた、よろしくお願いします。
K.Koba